コラム
コンテンツ
1.PCAFスタンダードとは
PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)とは、2015年にオランダで発足した、国際的な金融機関のパートナーシップであり、投融資に係るスコープ3の排出の計測・評価に向けた⽅法論やデータセットの整備を⾏っています。
日本ではゆうちょ銀行、東京海上日動火災保険、三菱UFJフィナンシャルグループなど大手金融機関から九州フィナンシャルグループといった地方銀行も加盟しています。
PCAFスタンダードとは、2020年11月にPCAFが作成した「金融業界のためのグローバル温室効果ガス計測・報告スタンダード」のことです。
PCAFスタンダードは、金融機関が投融資先のスコープ3の排出量の計測・報告をする際に活用します。
2.GHGプロトコルのスコープ3スタンダードとは
PCAFスタンダードの土台となった、金融機関の投融資による温室効果ガス排出量の測定や基準を策定したものに「GHGプロトコル」があります。
GHGプロトコルとは、GHG(温室効果ガス)を算出・管理する国際的な基準のことです。
2016年にはCDPに回答したフォーチュン500企業の92%が、GHGプロトコルに基づいて、GHGの報告を行っています。
GHGプロトコルを策定したのは、GHGプロトコルイニシアチブであり、
GHGプロトコルイニシアチブは、1998年に「世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)」 と 世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)」により共同で発足され、現在は企業、政府機関、NGO等も参加している組織です。
GHGプロトコルイニシアチブは「企業のバリューチェーンの算定・報告基準(スコープ3スタンダード)」を策定しており、その中で投融資による温室効果ガス排出量のベースとなる考えを述べています。
スコープ3とは、スコープ1.2を除いた自社事業に関する全ての間接的なGHGの排出のことを意味します。
※スコープ1は直接排出を意味し、自社設備で燃料を燃焼、また化学反応によって直接排出した二酸化炭素等のことを表します。
※スコープ2は間接排出を意味し、他社から購入した電気や熱、蒸気等が作られる際に排出した二酸化炭素等のことを表します。
スコープ3は各活動を15のカテゴリに分類しています。
スコープ3カテゴリ | 該当する活動 | |
1 | 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2 | 資本財 | 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) |
3 | Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 | 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等) 調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) |
5 | 事業活動から出る廃棄物 | 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送、処理 |
6 | 出張 | 従業員の出張 |
7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8 | リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働 (算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半) |
9 | 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理 |
13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
その他(任意) | 従業員や消費者の日常生活 |
出所:サプライチェーン排出量算定の考え方 パンフレット 環境省 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf
このうち、カテゴリ15は、主に民間金融向けとなっており、投資することによる排出量の算定を求めています。
3.PCAFスタンダードとスコープ3スタンダードの違い
PCAFスタンダードとGHGプロトコルのスコープ3スタンダードの違いは大きく2つあります。
①PCAFスタンダードは「6つの資産クラス」を報告対象とした
スコープ3スタンダードのうち「カテゴリ15の」投融資では、一部の資産クラスの報告は必須ですが、資金使途を特定しない企業の投融資先のGHG排出量の算出と報告は任意となっています。
必須項目はエクイティ投資、デット投資(資金使途特定)、プロジェクトファイナンスの3つで、任意項目はデット投資(資金使途非特定)、金融サービスの2つあります。
一方でPCAFスタンダードは、金融機関の貸借対照表に記載された資産を6つの資産クラスに分類し、投融資スコープ3排出量の算出と報告を求めています。
6つの資産クラスは以下です。
- 上場株式・社債
- ビジネスローン・非上場株式
- プロジェクトファイナンス
- 商業不動産
- 住宅ローン(モーゲージ)
- 自動車ローン
この6つの資産クラスについて、それぞれ報告を求めています。
②資金調達の際のGHG排出量を計算するための計算式を取りまとめた
PCAFスタンダードでは、GHG排出量の算出方法を取りまとめるなど、スコープ3スタンダードよりも具体化されています。
以下が、資金調達の際の、GHG排出量を算定する計算式となります。
Financed emissions:投融資にかかる排出量
Outstanding amount:投融資残高
Total equity:エクイティ
debt:デット
Company emissions:企業の排出量
投融資先が排出量を報告していない場合でも、推定排出量を用いることで上記の計算式を用いることができます。
PCAFでは、
①報告ベースの排出量
②活動指標に基づく推定排出量
③財務指標に基づく推定排出量
の3つにカテゴリ分けを行い、
さらにその計測手法によって、下表のようにデータの品質を定義しています。
データの質 | 資金調達の際の排出量カテゴリ | 計測手法 | |
スコア1 | ①報告ベースの排出量 | ①a | 対象企業・プロジェクトが報告した排出量(認証取得) |
スコア2 | ①b | 対象企業・プロジェクトが報告した排出量(認証未取得) | |
②活動指標に基づく推定排出量 | ②a | 対象企業のエネルギー消費量 × 排出原単位 | |
スコア3 | ②b | 対象企業の⽣産量 × 排出原単位 | |
スコア4 | ③財務指標に基づく推定排出量 | ③a | 対象企業の収益 × 当該セクターの収益あたりの排出量 |
スコア5 | ③b | 投融資残⾼ × 当該セクターの資産あたりの排出量 | |
③c | 投融資残⾼ × 当該セクターの収益あたりの排出量 × 当該セクターの資産回転率 |
参考:PCAF グローバル温室効果ガス計測・報告スタンダード
PCAFは、投融資スコープ3排出量の報告の際に上記の「データの質」を排出量で加重平均したスコアも合わせて開⽰することを求めています。
4.今後のPCAFによる影響
金融機関を主体とした、GHG排出量の算出と報告が、世界的に活発化しています。
現在は大手金融機関を中心にPCAFスタンダードの拡大が進んでいますが、九州フィナンシャルグループのように、地方銀行でもPCAFスタンダードの適用が広がっていくことでしょう。
その場合、中小企業であったとしても、金融機関から排出量の算出や報告が求められます。
必然的に、金融機関から投融資を受けるためには、将来的に温室効果ガスの削減に取り組む必要がでてくると考えられます。
温室効果ガスの削減には、再生可能エネルギーである太陽光発電システムや省エネ設備の導入が効果的です。皆様も検討してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。